今回初めてダウンヒル(DH)を走行してみて、理論的に思ったことをまとめてみました。論理的思考と理論構築を「屁理屈」と捕らえる人は、戻ることをお勧めします。(あと物理が嫌いなひとも)
さて、「DHにはディスクブレーキ」というのは、最近では常識のようですね。私も実際に走ってみてそう感じました。
Vブレーキも、平地では全く問題ない制動力を持っています。ですが、DHでは「減速力」という別のパラメータを用意する必要があると思いました。
もちろん、どんなに優秀なブレーキを装備したところで、タイヤグリップを超えた制動はできないわけですが、タイヤグリップの極限を取り、その仮定の中での「減速力」を考えて見ます。
平地では、マシンを前進させる原因は「人力」だけです。トルクを加えるのを止めれば、熱力学的エネルギー保存則に従って、慣性で走行した後、様々な抵抗で停止します。
ところが、DHでは常に「重力加速度」というエンジンが付きます。傾斜角度45度を下る場合、G'=4.9kg/s^2です。つまり、これを減速させるには、車でいえばアクセルを踏みながらブレーキを踏んで止まろうとするのと同じことです。ですから、「現在の運動エネルギー」+「微分領域の位置エネルギー」の値を、制動力で割った値が「減速力」と考えられると思います。
具体的に計算してみます。ここでは計算を単純化するために、物理的な外部影響を無視し、かつ重力加速度をG=9.8kg/s^2としています。
まず、ディスクブレーキ・Vブレーキそれぞれの制動力比を求めます。
MTBのタイヤ径は556mmで、標準的なディスクブレーキのローター径は160mmです。また、V・ディスク共に機械式で、レバー比は同じとします。
このとき、制動力は、「キャリパーでのテコ比」×「直径の比」で求められます。
まず、キャリパーでのテコ比を求めます。同じテコ比のレバーで引いているので、パッドの移動距離で求められます。
Vブレーキはリムで制動するために、クリアランスは多めです。実測で3mmといったところです。対してディスクブレーキでは専用のローターで制動するため、クリアランスは多くて0.5mmほどです。
ということは、3mm:0.5mm
= 6:1 で、ディスクの方が6倍強くローターを挟みます。
次に直径比です。 556mm:160mm ≒
3.493:1 (Vと同じ力でローターを挟むと、ディスクはVの3分の1以下の制動力)
ですから、制動力比は 6:1×3.493:1 ≒
1:1.717
つまり、機械式ディスクブレーキは、Vブレーキよりも約1.7倍強い制動力を持つことになります。
ここで、走行中の状況に当てはめてみます。
例えば、平地で30km/h(8.33m/s)、加速度0m/s^-2で走行している、もろもろ含め80kgの自転車を、1.7sで静止させられるVブレーキ(V)の制動力(熱量)は、
8.33(v)×80(m)÷2 = 333(.2) (速さ×質量÷2)
1.7sで静止させるから、
333.2÷1.7 =
196J (単位時間当たりに熱エネルギーを発生する量 =
制動力)
V =
196J
対して、同じ条件下で自転車を1sで静止させられるディスクブレーキ(D)の制動力は、
8.33(v)×80(m)÷2
= 333(.2)
1sで静止させるから、
333.2÷1 =
333.2J
D =
333.2J
※これらの値は、タイヤグリップ(μ)が極限のときの値。
ここで、DHの状況に当てはめてみます。
Δh =
1mの微分領域で考えると、
この領域の位置エネルギーは、
80(m)×9.80(g)×1(h) = 784J (質量×重力加速度×高さ)
上の式から、
運動エネルギー Ek = 333J
位置エネルギー Ep =
784J
ここで、静止するまでの時間(減速力)を考えます。
Vブレーキ(Vs)では、
(Ek+Ep)÷V =
5.69s
Vs = 5.69(5.69秒で停止します)
ディスクブレーキ(Ds)では、
(Ek+Ep)÷D =
3.35s
Ds =
3.35(3.35秒で停止します)
こうして見ると、平地では殆ど差の無かった制動力が、減速力というフィルターを掛けることで、秒単位で顕著に制動力の差が現れるわけです。これは極端な例で(加速を自由落下で求めているため)、実際にはこれほどの差は現れないと考えられますが、差が増幅されることは間違いないです。
実際にはフルブレーキングをすることはないので、走行中にブレーキレバーへ加えるべき力が少なくて済むことになります。つまり、疲れにくくなるわけですね。
疲れにくいというのは、安全性に大きく貢献できる要素です。ですから、安全にDH走行を楽しむには、やはりディスクブレーキが必須と思われます。
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